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特定非営利活動法人ふわり
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街の中でふわりふわりと考える

vol.23 /「王(わん)さんの嘆き」  戸枝陽基


 中華街と言えば、横浜が有名だが、神戸にも古くからの中華街がある。
 横浜ほどの規模ではないが、なかなかどうして、素敵な料理屋や雑貨屋が立ち並び、ブラブラと歩いているだけで目に楽しい。

 数年前、僕は、新しく作る施設で、障害のある方の仕事として取り組もうとしていた中華料理店の仕入先を決めるべく、商談で、神戸の中華街に行った。

 店に着くと、王さんという人が待っていた。人懐っこいやさしい顔で迎えてくれ、「せっかく中華街に来たんだから、私の店でご飯食べませんか?」と誘って下さった。正直、ちょっと、こうなるだろうと期待していたが、僕は、実際のお誘いに大喜び。うきうきしながら、王さんの後を着いていった。

 着いた先は、神戸の中華街の中心にある、とても素敵な中華料理店だった。ひとしきり、名刺交換などをし、僕達の活動を説明した。王さんは、「日本の福祉は、中国と比べて素晴らしい」としきりに褒めてくださる。何となく照れ臭く、うれしかった。

 日本の福祉レベルを評価する場合、福祉にお金を使わない・払わない、国と国民の意識レベルの低さを棚上げしたまま、他国との比較というと、やたらスウェーデン、デンマークなど北欧の高負担・高福祉型と比べられたりする。
 その結果、いかにも僕達日本の福祉人がさぼっているかのように揶揄されるのが常なので、褒められることに、どうも慣れていない。

 頑張っていることを褒められると、福祉人として素直にうれしい。他国の人となれば、なおさらだ。
 思いがけず褒められて上機嫌。おいしい料理の数々に舌鼓。すっかり仕事を忘れ去った僕が、うっとりツバメの巣のスープをすすっていると、会話はいつしか不況の話になった。

 いつもニコニコ、やさしい笑顔の王さんも、さすがに、この話題になると首を振って、厳しい顔になった。そして、こんな話をしてくれた。
「不況になって、日本人は、どんどん間違った商売になっているよ」僕が、どういう意味かと、夢中で食べていた手を休めて、王さんを見ると、王さんは、訳を話してくれた。
 
「うちの店で、キクラゲを売っている。キクラゲには、1級品から2級、3級、規格外といろいろ、その品質に合わせて値段がある。不況になって、いろんな人が、1級品をできるだけ安く売ってくれと言ってくる。でも、1級品は、1級品の値段でしか売れないじゃない?」

 王さんが、僕を見た。僕は、キャベツのひき肉包みを口に咥えたまま、そりゃあ、そうですよとばかりに、首を縦に振った。

 王さんが続けた。「うちは、そんな無理なことを言うお客とは、商売しない。でも、ひどい商売人もいる。お客の言う通りの安い値段で、1級品を売っている」

 僕は、口をもぐもぐしながら、くぐもった声で訊ねた。「そんなこと、できるんですかね?売る側が、利益を削るとしても、限界があるでしょう?」
 王さんが、よくぞ言ってくれたと深く頷きながら、答えた。「安い値段で1級品を売る。どうするか?簡単。1級品の箱に3級品入れればいい」僕は目を見開いて、ほーっとため息をついた。

 「キクラゲは、いびつな形で丸くなっているから、普通1級品は、端っこは捨てて、真ん中の良い所だけを使う。でも、最近、機械ができて、レコードの針を回すように、キクラゲを中心に向けてグルグルと長くながく刻んでいく。こうすると、キクラゲは、捨てるところないから、たくさんになる。でも、端っこの悪いところが、入っちゃうよ。そんなことをする人までいる」王さんが肩をすくめて、こっちを見た。

 「この間も、商品に虫が入っていたという人から、電話が来た。私、言ってやった。良かったですね、その商品は虫が食べるほど、安全ですよ。農薬を使っていない証拠ですって。お客さん怒った。
一生懸命やっても、食べ物なんだから、虫、入るよ。虫、いたら取って捨てればいいじゃない。それを安い値段で完全に無くすようにしろって、日本人、言ったから、中国の農家、日本に出すものに、農薬かける人が増えたよ」そういう王さんの目が、とても悲しそうだった。

 「安全で良いものを食べるには、1級品には1級品の値段を払わないと駄目だよ。安物を買って、得をしたような気になっても、やっぱり、安物は安物だから。売る方も、ごまかして安物を売ったら、いつか、お客さんに見捨てられる。そこに気づかないと。それと、相手を思いやる心を、商売する人はもちろん、買う方も持たないと、お互いが幸せになる商売はできない。人は間違いを犯す。それを極端に責めることが、危険だということに、気がつかないと」僕は、う〜むと腕組みをした。

 お年寄りや障害者の介護事業所で、最近、ヘルパーなどの人材確保が出来ないということが、問題になり始めている。これは、その支え手の労働条件が、その負うべき責任やストレスなどに見合っていないと世の中が判断し始めたからじゃないだろうかと思う。
 良い介護を受けたければ、目先の事実だけではなく、利用者・事業者双方が費用負担や介護施策など、介護を取り巻く深い背景をきちんと考えること。そして、自らができる努力をすること。

 そんなことをもんもんと考えていると、王さんがニヤッと笑って、僕に言った。「でも、努力しないで、虫の入っている商品をお客さんに届けるのは、絶対にダメだよ」

 うーむ。そして、冷や汗。人間関係を大切にする商売を、自分の愛する街で広げて行きたいな。ぷるぷると揺れる杏仁豆腐を見つめながら心に誓った。ずるをしない取引、顔の見える関係、循環型経済、地域密着。いくつかのキーワードが頭に浮かぶ。

 福祉の枠を越えて。街づくりとして頑張る必要があるんだろうな。多くの人と協働しないとダメなんだろうな。そんな想いにさせてくれる素敵な中華の宴だった。


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